段ボールは紙でできています。周囲の湿度が変わると紙の水分状態も変化し、それが箱の圧縮性能に影響します。
段ボールは紙でできているため、周囲の湿度の影響を受けます。次のような流れで、湿度の変化が箱の圧縮性能に関わっていきます。
この2つは混同されやすいですが、指しているものが異なります。
相対湿度(RH):空気側の状態。空気中にどれだけ水蒸気を含んでいるかを、その温度での飽和量に対する割合で表したもの。
含水率:段ボール・紙側に含まれる水分量。紙そのものが持つ水分の量です。
相対湿度は周囲の環境条件、含水率は紙・段ボールの状態を表す値であり、両者を混同しないことが重要です。
紙はセルロース繊維を主体とする吸湿性材料であり、周囲環境に応じて水分を吸収・放出します。
紙の水分状態が変化すると、その機械的特性や剛性にも影響します。段ボール箱の圧縮性能は、ライナ・中しんの紙の剛性やフルート構造、箱構造によって支えられているため、紙の水分状態の変化は箱全体の圧縮性能にも波及します。流れを整理すると、次のようになります。
相対湿度上昇 → 紙が吸湿 → 含水率上昇 → 紙の力学特性・剛性が変化 → ライナ・中しんの荷重支持性能へ影響 → 段ボールシート・箱の圧縮性能へ影響
紙の水分状態が変化すると、紙の剛性などの力学特性が変化し、それが段ボールの圧縮性能にも影響します。
ただし、水分状態と強度低下の関係は条件によって異なります。「水分が○%増えたら強度が○%落ちる」といった万能の補正式は存在しません。次のSECTIONでは、公開研究が報告している経験的な関係を、試験条件・適用範囲とあわせて整理します。
湿度と段ボール箱の圧縮強度の関係を調べた公開研究として、Clemson大学のBrown(2019)による研究があります。この研究では、次のような条件で検証されています。
この研究で確認されている内容は次のとおりです。
論文中のグラフ・表・数式そのものはここでは転載せず、確認された内容と、著者が報告した回帰式(出典明記)を自サイトの表現・図で整理しています。詳細は原論文(REFERENCES参照)をご確認ください。
Brown研究では、箱寸法・フルート・原紙構成が異なる複数のbox setを扱っているため、仕様の違いをまたいで比較するために、各box setについて50%RH時の圧縮強度を基準として圧縮強度を正規化して解析しています。
50%RH時を基準値付近として、湿度条件が変わった際に箱圧縮性能が相対的にどの程度変化したかを見る指標です。C はN・kgf等で表す絶対的な箱圧縮荷重ではありません。
Brown (2019) は、試験した段ボール箱のデータから、①相対湿度と含水率、②相対湿度と箱圧縮性能、③含水率と箱圧縮性能、の関係を回帰式として整理しています。ここで示す式は、段ボール箱全般へ無条件に適用する万能式ではありません。Brown (2019) が使用した試料群と試験範囲から得られた経験的な回帰モデルとして扱います。
RH上昇に伴う段ボール含水率の変化は、試験範囲内で二次式によって良好に近似されています。モデルから得られる代表値(Brown (2019)の試料群と回帰モデルに基づく値であり、一般的な段ボールの標準含水率ではありません):
Brown研究の30〜90%RHの範囲では、RHと正規化箱圧縮強度の関係は二次式で整理されています。RHが高くなるにつれて、モデル上の正規化圧縮強度は低下します。C は箱圧縮荷重そのものではなく、50%RH時の同一box setの圧縮強度を基準にした相対値です。
Brown研究の試験範囲では、段ボール含水率と正規化箱圧縮強度の関係は線形近似されています。式の係数から、研究範囲内では、含水率が1ポイント上昇すると正規化圧縮強度が約0.07低下する関係が示されています。Brown本文では、この結果を研究範囲内で、含水率1%上昇につき圧縮強度が約7%低下する傾向として整理しています。
すべての段ボール箱について「含水率が1%増えると必ず強度が7%低下する」ことを意味する式ではありません。
Brown Eq.4:M = 0.00187 × 80² − 0.108 × 80 + 8.30 → M ≈ 11.63%
Brown Eq.6:C = −0.00013 × 80² + 0.0070 × 80 + 0.98 → C ≈ 0.71
Brown (2019) の回帰モデル上では、80%RH環境において、段ボール含水率は約11.6%、正規化箱圧縮性能は約0.71と推定されます。50%RH時を基準とすると、モデル上では約71%相当の圧縮性能です。
これはBrown (2019)の試料群と回帰モデルによる計算例です。「80%RHなら、すべての段ボール箱の圧縮強度が必ず29%低下する」という意味ではありません。実際の結果は、原紙・フルート・箱寸法・箱形式・加工・接合・調湿履歴・温度・初期含水率等によって変化します。
Brownモデルは、研究で使用された試料群と環境条件から得られた経験的回帰式です。少なくとも以下を確認して使用します。
などによって実際の箱性能は変化します。研究範囲外への外挿は推奨しません。
Brown (2019)では、過去のKellicutt & Landtモデルとの比較も行われています。6.6〜9.8%の含水率では両モデルの推定値の差は2%以内ですが、9.8%を超えると差が拡大し、13.7%では差が最大15.8%に達しています。高含水率側ではモデル間の差が大きくなるため、既存の補正式をすべての条件へ機械的に適用することには注意が必要です。
紙には、吸湿していく過程と、脱湿していく過程とで、同じ相対湿度であっても平衡含水率が同じにならない場合があるという性質があります。これを吸脱湿ヒステリシスと呼びます。
紙・板紙の試験では、試料を規定の環境条件へ調整してから測定するという考え方が重要です。この考え方はISO 187:2022に整理されています(規格本文はここでは転載しません)。調湿を行わずに測定すると、試料の水分状態が測定条件によってばらつき、結果の比較が難しくなります。
湿度・水分に関わる試験結果を正しく比較するためには、次のような要素を確認・管理します。
段ボール箱の強度を湿度の観点から考える場合、次の点を押さえておくと実務上役立ちます。
段ボールの構造・強度評価の基礎全体は段ボールの基礎で解説しています。