2026年、カルビーは一部商品のパッケージ印刷を一時的に2色へ変更しました。その後、原材料の調達見通しを踏まえ、一部商品でフルカラー印刷を再開しています。この変更を包装技術とサプライチェーンの視点から読み解きます。
カルビーは2026年5月、一部商品のパッケージ印刷を2色へ変更すると発表しました。その後2026年7月、原材料の調達見通しを踏まえて一部商品のフルカラー印刷を再開すると発表しています。
カルビーの2026年5月12日発表によると、中東情勢の緊迫化により一部原材料の調達が不安定化したことを受け、商品の安定供給を最優先し、合計14品についてパッケージに使用する印刷インクの色数を従来仕様から2色へ変更するとしています。切替は2026年5月25日週より順次実施され、商品品質への影響はないとされています。
対象には、ポテトチップス、堅あげポテト、かっぱえびせん、フルグラが含まれました。
カルビーのポテトチップスといえばポテト坊やですが、白黒でも印刷しておいた方が良かったのでは…?
また、「石油原料 節約パッケージ」の新たな表示枠が設けられていますが、この印刷にするための印刷版の変更などもあるはずですので、原料高と2色パッケージへの切り替えコストを天秤に掛けた時に前者が勝るという経営判断をされたのだと推察されます。
カルビーは変更理由として「一部原材料の調達不安定化」を挙げています。
同時期の業界環境として、次の情報が公開されています。
カルビーの発表からは「印刷原材料の調達不安定化」が確認できます。同時期には、ナフサを含む石油化学サプライチェーン全体でも調達・流通上の制約が生じていました。
印刷インキは、原油に由来する石油化学原料を経て作られています。ここではカルビーの事例を離れ、一般的な化学的つながりを段階ごとに整理します。
原油は単一の化学物質ではなく、多数の炭化水素を中心とする混合物です。製油所では原油を加熱し、沸点の違いを利用して、LPガス・ナフサ・灯油・軽油・重質留分などへ分離します。この基本工程を常圧蒸留といいます。ナフサは比較的軽質な留分で、既存一次情報に基づけば、おおむね35〜180℃程度の沸点範囲を持つ留分として説明されます。
原油から得られる各留分の割合は、原油種・製油所構成・二次処理等によって変化します。
原油からの蒸留得率とは区別して、2024年の日本国内向け石油製品販売構成を見ると、ナフサは石油製品の中で大きな構成比を占めています。
2024年の背景データとして、石油化学用ナフサは国産が約39%、輸入が約61%とされています。輸入ナフサの地域構成は中東73.6%・アジア14.0%・その他12.5%で、中東の内訳はUAE30.4%・クウェート21.6%・カタール15.4%・サウジアラビア3.0%・その他3.1%です。
これは中東情勢と日本の石油化学サプライチェーンの接点を理解するための背景データです。
ナフサは単一の化学物質ではなく、複数の炭化水素からなる留分です。石油化学原料として利用する場合、ナフサを水蒸気とともに高温で熱分解するSteam Crackingによって、より小さな基礎化学品へ変換します。代表的には、エチレン約30%・プロピレン約20%・ブタジエン約5%などが得られ、加えてBTX・C4系・C5系・分解油・その他副生成物なども生じます。生成比率は原料組成・分解条件等で変化するため、ここでは代表的な概略値として扱います。
印刷インキは、大きく着色剤(顔料・染料)、ワニス/ビヒクル(樹脂・溶剤)、各種添加剤で構成されます。グラビア・フレキソ等の液状インキでは、樹脂と溶剤等からワニスを作り、そこへ顔料等を分散してインキを形成します。ナフサそのものを包装フィルムへ塗布しているわけではありません。
化学的な関係は概念的に、原油 → ナフサ → 石油化学基礎製品 → 石油化学誘導品 → (合成樹脂原料・有機溶剤・顔料原料・添加剤原料)→ 印刷インキ → 包装印刷、という多段階の関係として理解する必要があります。
ナフサ分解・改質等から得られる芳香族化学品には、ベンゼン・トルエン・キシレン等があります。これらやその誘導品は各種化学製品の原料として利用され、一部は印刷インキ関連の溶剤・樹脂・その他原材料のサプライチェーンとも接続します。現在はノントルエン型、水性型、その他低VOC系等も存在し、インキ処方は製品ごとに異なります。
印刷インキの乾燥皮膜を形成する重要成分として樹脂もあります。石油化学基礎製品から各種誘導品を経て、合成樹脂系材料へつながるサプライチェーンが存在します。今回のカルビー包装で使用された具体的な樹脂・溶剤・顔料・インキメーカーは、公式発表に記載されていません。
ナフサという上流原料そのものが印刷皮膜として包装フィルム上に残っている、と考えるのは適切ではありません。グラビアインキ等の蒸発乾燥型インキでは、顔料・樹脂・溶剤・添加剤からなる液状インキを印刷したのち乾燥し、溶剤の大部分が蒸発して、顔料・樹脂等を主体とする乾燥印刷皮膜が残ります(乾燥後も微量の残留溶剤が生じる場合があります)。ナフサとの関係は、印刷インキを構成する複数の化学物質の上流原料として理解するのが適切です。
DIC株式会社の2026年4月3日発表では、中東情勢を背景に原油・ナフサ・石油化学原料の調達環境悪化と、グラビア・フレキソインキ等に使用する原材料への影響が説明されています。この情報は、石油化学サプライチェーンと包装印刷インキ産業が接続していることを示す背景情報です。DICが今回のカルビー向けインキを供給していたという取引関係は公表されていません。
一般的な包装印刷の観点では、印刷色数を減らすことは、使用するインキ種類の削減、特定色・特定原材料への依存低減、限られた印刷材料を優先配分する余地の確保、につながり得ます。
色数削減によって一般的には、使用する色別インキ種類、一部の顔料系統、調色対象、特定原料への依存、インキ供給対象数を減らせる可能性があります。ただし「色数が半分になれば化学原料使用量も単純に半分になる」わけではなく、各色のインキには共通する樹脂・共通する溶剤・色ごとに異なる顔料・各種添加剤等が含まれます。カルビーが具体的にどの原料をどれだけ削減したかは公表されていません。
カルビー公式発表では、商品の品質への影響はないとされています。ここで、包装技術の観点から整理しておきたい点があります。
パッケージには、印刷・デザイン、情報表示、内容物保護、密封、バリア、輸送適性など複数の機能があります。今回カルビーが公表した変更は「印刷インクの色数」です。フィルム構成、厚さ、バリア層、シール層等についての変更は公表されていません。
軟包装フィルムの層構成や各層の役割については、プラスチックフィルム(軟包装)で解説しています。
カルビーの2026年7月9日発表によると、直近の原材料調達見通しを踏まえて仕様を見直し、2色印刷対象商品のうち8品でカラー印刷を再開するとしています。商品の安定供給を最優先しつつ、節約を継続しながらカラー印刷を再開し、2026年7月27日週から順次生産を切り替えるとされています。
カルビーは「節約を継続しながらカラー印刷を再開する」としており、原材料調達の見通しを踏まえた段階的な対応と位置づけています。
フルカラー印刷再開の対象は次の8品です。
フルグラ330g・700gは全面(表面・裏面)のフルカラー印刷を再開、その他の対象商品はパッケージ表面のフルカラー印刷を再開、と区別されています。なぜこの8品が選ばれたのかは公表されていません。
フルカラー印刷再開後のパッケージがどのような外観に戻ったかも、公式資料から確認できます。
カルビーが公表した変更内容は、パッケージ表面の印刷インク色数です。
2026年5月時点の2色対応パッケージと、2026年7月時点でフルカラー印刷を再開したパッケージを並べると、表面の色数が視覚的に変化していることが確認できます。カルビー公式発表によれば、フルグラ330g・700gは表裏両面、その他の対象商品は表面のみフルカラー印刷を再開したとされており、商品によって復旧範囲が異なっています。
今回の事例を起点として、一般的な包装BCP(事業継続計画)の考え方を整理します。以下は包装BCPを考える際の一般的な設計視点です。
包装仕様は、製品発売時に固定され続けるものとは限りません。原材料の供給環境、物流、規制、設備、コストなどが変化すれば、包装仕様にも変更が必要になることがあります。
今回のカルビー事例は、デザイン性・情報伝達・包装材料・安定供給を同時に考える必要があることを示す事例といえます。